抑肝散

抑肝散(ヨクカンサン)は、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、川芎(センキュウ)、釣藤鈎(チョウトウコウ)、当帰(トウキ)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)の7つの生薬からできています。

蒼朮:発散作用、健胃作用、利尿作用

茯苓:利尿作用、鎮静作用、健胃作用、対めまい作用、利尿滲湿作用、益脾腎作用

 川芎:月経調整作用、活血作用、鎮痛作用 釣藤鈎:鎮静作用、鎮痙作用、解熱作用

当帰: 補血作用、理血作用、月経調整作用、潤調作用、活血調経作用

柴胡:解熱、消炎、鎮痛作用、鎮静作用、抗菌作用、抗ウイルス作用

甘草:緩和作用、止渇作用、止痛作用

肝臓とは違う肝とは?

「抑肝散」は、漢方名のとおり、「肝」を抑える働きをします。ここで言う、「肝」は、西洋医学で言われている肝臓の臓器とは少し違います。 西洋医学で言う肝臓の働きは、 胆汁を排泄して有害な物質を体内で解毒します。また、身体を動かすエネルギーを生産して、全身の臓器の働きに関わり、血液を貯蔵、供給します。直接関係はありませんが、身体全体がうまく回ることで、感情のコントロールも上手にできます。この直接関係がないと思われる、働きが「肝」にはあると考えられているのです。

子どもに対しての抑肝散

  中国の考えで、世の中のすべては木火土金水の五行で構成されていると言うものがあり、この五行から考えて、子どもは、肝気(木)が亢進することで、脾(土)が低下しやすいと言われています。

そのために、脾が弱い(土)→いわゆる胃腸が弱い体質で→虚熱を生じて→肝血が不足し→肝気(木)の亢進に繋がるという考えになります。子どもは、五臓六腑の機能が未熟で、身体の急変が起こりやすく、大人と比べるとすぐに高熱を出すことや、情緒が不安定になる原因だとなるのです。

♪赤ちゃん夜泣きで困ったな~♪かんむし乳はき困ったな~♪ヒヤヒヤヒヤのひやーきおーがん♪なんて昔のCMを聞いたことがある方もおられると思います。 この「かんむし」を抑える漢方です。 抑肝散は、もともと子どもの夜泣き、疳の虫に処方されていた漢方です。今は、大人の様々な神経症状にも処方されていています。不眠症や歯ぎしり、更年期の女性にもよく効きます。中国では、「抑肝散」は子どものみに使用されているようです。

『魄』と『魂』 中国の道教の考えで、人間の精神を魄(はく)と魂(こん)陰陽というものとして、説明しています。
●陰を魄:本能的現実的即物的欲求(肺金)
○陽を魂:審美的冷静的崇高な感情(肝木)

 生まれたばかりの赤ちゃんは、『魄』のみで、大きくなるにつれて、『魄』から『魂』が生まれ、徐々に『魄』をコントロールできるようになります。子どもの落ち着きのない様子は『魂』がまた発達しきれていないために、肝気が不安定な状態とされます。

そこで、「抑肝散」などで、肝気の改善を目的として用いられるのです。 子どもの夜泣きや、落ち着きのない状態、チェック症状など、子ども全般の症状に効くとされていて、最近では、注意欠陥・多動性障害なのにも有効であるというデータがあります。

母親と子どもに同時に処方する漢方

「子母同服」と言う言葉があり、 母と子が同時に服用することで、母親の育児のストレスが減り、それに乗じて子どもも情緒が安定して、夜泣きや疳の虫が治まりと一石二鳥だと考えられています。 母乳育児の場合は、母親が「抑肝散」を飲むことで、母乳を通じて薬効成分が移り、母子ともに精神が安定するなどの効果を生むこともあります。

抑肝散の効果 イライラや不眠に効果的 漢方では「肝」には、神経や感情をコントロールする役割があると考えられていて、神経が高ぶって興奮している状態を抑える効果あるのです。肝臓が悪いから飲むという漢方薬ではないことを分かってもらえたかと思います。

気が高ぶり、イライラしやすい、怒りっぽい、緊張で身体の筋肉の緊張が解けないなどの理由で、夜間によく眠れない方や、眠りの浅い方にもおすすめです。こういう方は、寝る前に一包飲むと気分が落ち着き、スーッと眠りにつけるようになります。良く眠れると、疲れも取れて、緊張もほぐれ、毎日の生活も気分よく送れるようになり、イライラも少なくなることで、相乗効果をもたらし、前向きな生活を送れるようになるでしょう。

精神面に効果を期待される漢方

 最近では、精神面への効果が確認されて、認知症などの症状を抑えるとして期待されています。認知症は、長期に渡る治療期間が必要になります。副作用をなるべく抑えたいとの考えからも漢方薬は期待されているのです。

医学的には、認知症とは、脳や身体の疾患を原因として記憶や判断力などに障害が起こり、社会生活を営めなくなった状態とされていますが、症状は、「中核症状」と「周辺症状」に分けられて、「中核症状」とは、記憶障害や判断力の低下のことで、「周辺症状」とは、徘徊や攻撃、暴言、暴力、拒絶などの行動障害と、興奮、幻覚、妄想、せん妄、うつ状態などがあたります。

その方の性格や環境によって症状は異なりますが、本人も介護する方も大きな負担になるでしょう。西洋薬である向精神病薬が使われることもあるのですが、副作用があり、2005年頃からアメリカなどでは、向精神病薬は控える傾向になってきています。そんな中「抑肝散」など漢方を処方したところ、有効性が認められた報告が相次ぎ、医療の現場で多く処方されています。

副作用はほとんどないのですが、胃腸の弱い方は、抑肝散に含まれる、当帰、川芎、釣藤鈎は胃にもたれやすいと言う方がおられるために、注意が必要でしょう。 胃腸障害が起こるわけではないのですが、長期間服用する場合などは、気をつけましょう。もし、胃腸に負担がかかるという方は、抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)に変更すると良いでしょう。次回は、抑肝散加陳皮半夏についてお話します。