抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ) は、釣藤鈎(チョウトウコウ)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、蒼朮(ソウジュツ)、 茯苓(ブクリョウ)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)陳皮(チンピ)、半夏(ハンゲ)の9つの生薬からできています。
先日紹介した「抑肝散」に陳皮と半夏を加えた処方です。
陳皮:理気作用と言い、健胃作用・去痰作用がある。気の滞りを改善する。
半夏:半夏は、胃内の低水改善作用、健胃消化・鎮吐・鎮咳・去痰作用 「陳皮」と「半夏」を組み合わせることで、胃部不快感や胃内停水、悪心・嘔吐を治します。
漢方薬の切れ味とは?
抑肝散の効果に加えて、気鬱に対する効果や、長期に服用しても胃腸の負担を感じないように処方されていますから、胃腸が弱い方にはこちらの方が良いかと思います。しかし、「抑肝散」より2つの生薬が増えるので、即効性は薄く感じるかも知れません。
「抑肝散」より効き目が強いというわけではなく、胃に不快感などの症状があるかどうか で判断します。よく漢方の効きめがあるかどうかを「切れ味」があると表現することがありますが、これは、即効性があるかどうかを表現しています。
例えば、「甘草湯」は1種類、「芍薬甘草湯」は2種類の生薬しか入っていません。このような漢方は切れ味が良く、頓服としても使用できますが、慢性的な症状には長く使いません。 しかし、10種類の生薬からできている漢方は、切れ味は良くないかもしれませんが、慢性病にじわじわと効いてきます。要するに、病の見極めが大切だとう言うことです。
日本の独自の処方です
「抑肝散」は、中国の明の時代から伝わる処方ですが、「抑肝散加陳皮半夏」は、江戸時代に日本で編み出された処方です。父親が明の亡命者の医師であった「馬命宇」と、日本の遊女との間に産まれた「北山友松子(きたやまゆうしょうし)」が考案しました。 日本のように海に囲まれた、多雨多湿な風土を鑑みて、陳皮と半夏を加えた処方を用いると、日本人には良く効いたと言われています。また、両国の国民性の違いを間近に見て育つ中で、考えられた処方ですから、日本人には良く効いたのでしょう。
単発な怒りやイライラには、「抑肝散」が効き、怒りが長期化している場合は、おのずと身体や心を弱らせます。しいては、胃腸の働きにも影響して内臓に負担がかかるでしょう。そんな時には、「抑肝散加半陳皮半夏」が良いのかも知れません。
「抑肝散」で述べたように、精神面をサポートしますが、イライラに効く「抑肝散」ですが、クヨクヨと塞ぎこむような症状には、他の漢方薬が適用となり、単純に眠れないからと「抑肝散」を飲んでも効果がない場合もあります。
「虚、実、陰、陽」をよく見て、患者様一人一人の環境や、その症状が現れるに至った状況を把握して、患者様に合わせた漢方薬を服用することが大切でしょう。