子宮内受精の適応は、基本的に男性側の不妊因子のあるカップルに向くと言われています。軽度の男性不妊症であれば、精液を調整することで精子濃度や運動率の改善が期待できます。
女性の場合は一通りの不妊検査を行い、自然妊娠が可能な状態であれば、基本的な適応条件となります。
配偶者の同意を確認した上で夫婦ともに署名、捺印を頂いてから子宮内受精を行います。
WHOが発表する精液の総運動精子数から見る適応例
精液量 | 1.5ml以上 |
総精子数 | 3900万/射精以上 |
精子濃度 | 1500万/ml以上 |
総運動率 | 40%以上 |
前進運動率 | 32%以上 |
生存精子率 | 58%以上 |
正常形態率 | 4%以上 |
・精子濃度2000万/ml未満、精子量1ml未満の(乏無精子症)
・精子が少ない3900万/射精以下(精子減少症)
・精子の動きが悪い40%以下(精子無力症)
・精子運動率50%未満(精子無力症)
・性交後試験(フューナーテスト)の結果が良くない場合
・性交障害がある場合
・不妊症の原因が見つからない機能性不妊など
上記のような原因のあるカップルは、自然妊娠よりも子宮内受精の方が妊娠の可能性は高くなります。
その日の体調が悪く結果が良くない場合もありますし、精神的な問題でも精子の状態は変わり、検査結果は一様ではありません。
一度の精液検査で判断するのではなく、何度か精液検査を行うことで精液の状態を確認して、基準を満たさない場合に子宮内受精を考えると良いでしょう。
射精障害や性交障害
勃起障害や射精障害があっても、マスターベーションによって射精が可能な方は適応です。
女性側に性交痛があり性交できない方、精神的な理由があり性交が成立しないカップルの場合も適応になります。
頸管粘液の分泌に異常がある場合
女性側では、頸管粘液の不足、精子を運ぶ能力に問題がある場合は、通常の性生活では精子が子宮から卵管までたどり着きにくいことから適応です。
頸管粘液は透明な卵の白身のようなおりもののことですが、排卵期には、そこを精子が通過する時に受精能力を得ると言われています。粘液の少ない状態の方は適応となります。
免疫性不妊(フューナーテスト不良例)で、精子が子宮の入り口から子宮内へ登っていけない場合など、子宮内受精では管を使って直接子宮内まで精子が届くので有効だと考えられます。
抗精子抗体陽性(精子を障害する抗体)の場合
卵子と精子が出合って受精しなければ妊娠には至りません。しかし、精子を異物とみなしてしまい、攻撃してしまう場合があります。
精子を異物としてみなしてしまうと、抗体が作られて精子を排除しようと働くことがあります。免疫機能の異常なのですが「抗精子抗体」と判断します。
抗精子抗体には、精子同士を固まりにして動けなくしてしまう「精子凝集抗体」や精子の運動能力を奪ってしまう「精子不動化抗体」がありますが、詳しい原因はっきりと分かっていません。
女性の血液、子宮頸管から分泌される粘液に「抗精子抗体」があると、射精された精子が子宮内に入ってくることが出来ません。また、男性自身が自分の精子に対して抗体を持っていることもあります。
男性側に抗精子抗体があると、射精することで精子の運動能力が低下してしまいます。そうすると女性の体内では、能力を発揮することなく、精子が死んでしまい受精に至りません。
血液検査で抗体の有無を調べることができまし、性交後12時間以内に行う性交後試験(ヒューナーテスト)の検査をして、その結果によって問題がある場合に抗精子抗体検査をしてみても良いでしょう。
機能性不妊
カップルが一通りの不妊検査をしても、どちらにも異常が見当たらない場合は、タイミング療法を試しますが、妊娠が成立しない場合は機能性不妊の診断となり、子宮内受精の適応です。
排卵日を予測して行うタイミング療法続けても、なかなか妊娠に至らない場合は適応ですが、女性側の卵管采の癒着などによる障害、受精障害などの場合、子宮内受精では妊娠しにくいと考えられることから、体外受精を早めにお勧めする場合もあります。
原因不明の不妊
検査をしてみても、原因が特定できず原因不明と診断される不妊症の方もおられます。そのような場合も子宮内受精が適応であることから、体外受精を行う前に試してみてもよいでしょう。
子宮内膜症性の原疾患のある方が、排卵誘発薬剤と併用し、子宮内受精を行った場合の有効性も確認されています。
卵管が原因の不妊症や卵管障害のある原疾患の方にも、上記と同様に排卵誘発剤との併用で子宮内授精での妊娠率が上がります。