体外受精の合併症

体外受精は質の良い卵子を採取して妊娠率を高めます。そのために、外科的手術を行うのですから母体には負担がかかります。体外受精で起こりうる合併症のお話をします。

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)

生殖補助医療では排卵誘発剤を使用するため、薬の影響で卵巣が過剰に反応することがあり、卵巣肥大や腹水・胸水の貯留、血液濃縮などが認められることがあります。

OHSSは必ず発症するわけではありませんが、卵巣内の卵胞が一度に成長することで、卵巣が腫れます。

そうすると卵巣表面の血管から水分が腹腔内にあふれ、その水分が腹水となり血液が凝固されて尿量が減少し、電解質の異常・血栓症・呼吸障害などが起こります。

お腹の張り、腹痛、吐き気、息苦しさなどが起こった場合は、症状を悪化させないためにもすぐに連絡してください。

排卵誘発剤に敏感に反応する方や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性は発症しやすくなります。

E2(卵胞ホルモン)の値が3000pg/ml以上、採卵数が20個以上になるなどの条件が揃うとリスクが高くなります。

軽度であれば、外来で経過観察しますが、重度の場合には入院が必要となります。

重症化すると危険ですが、日本での重症化して入院するのは、10万人あたり0.6~1.2人と非常にまれなケースです。

妊娠するとOHSSが悪化することから、OHSSが疑われる場合には胚を凍結し、胚移植をキャンセルさせていただきます。

異所性妊娠

本来、子宮内膜に着床するはずの受精卵が子宮内膜以外に着床することが異所性妊娠です。

卵管に着床すれば卵管妊娠、それ以外の腹膜、卵巣、頸管に着床することもあります。

卵管の繊毛上皮細胞の障害や癒着(卵管内癒着、卵管周囲癒着)、人工妊娠中絶の経験がある場合などが原因となることもありますが、頻度は胚移植して妊娠した症例の1〜3%、症例の90%は卵管因子や既往に子宮外妊娠がある人です。

卵管因子のある方は7.0%、卵管因子がない場合は0.6%と差があります。

新鮮胚と凍結融解胚の異所性妊娠に関しては、新鮮胚では1.5% 、凍結融解胚では0% との報告があります。

卵管水腫がある方の場合、体外受精・胚移植前に卵管の切除することで妊娠率が上がり、異所性妊娠の発症を低下させます。

多胎のリスク

双子以上の妊娠を多胎といいますが、多胎妊娠は母体や胎児に与える影響が出産まで単胎の妊娠と比べるとリスクがあります。

早産になってしまう確率も高いですし、切迫早産になると入院する必要もでてきます。多胎妊娠で産まれた場合、低体重児で産まれる可能性も高くなります。

体外受精の妊娠率は?

日本産婦人科学会にて、学会に登録している体外受精が行われる施設からの報告を毎年発表していますが、妊娠率も、出産率も年齢があがるごとに低下しているという事実があります。

30歳女性では、胚移植による妊娠率は約30%・生産率は約20%と言われています。

35歳になると、妊娠率は約25%・生産率は約17%と少し下がります。さらに5歳年齢が上がって40歳では、妊娠率は約20%・生産率は約8%と下がります。

体外受精だけではなく自然妊娠も同じで、年齢が上がるとともに妊娠率は低くなり、流産率は上がります。

数字が表す結果は、年齢が上がるごとに厳しくなることを念頭に、不妊治療を進めていくことが大切になるでしょう。