牛車腎気丸

牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は、「八味地黄丸」 に含まれる地黄(ジオウ)、山茱萸(サンシュ)、山薬(サンヤク)、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、牡丹皮(ボタンピ)、桂皮(ケイヒ)、附子(ブシ)の8つの生薬に、牛膝(ゴシツ)、車前子(シャゼンシ)の2つの生薬が加わります。

牛膝(ゴシツ):むくみ、関節や腰膝の痛み、月経不順などに用いられます。

車前子(シャゼンシ):オオバコのことで、よく道ばたで見かる雑草です。この種を乾燥して使います。清熱、利尿、眼精疲労、むくみ、排尿痛や排尿困難に用いられる生薬です。

高齢やの下半身の悩み

「腎虚」は腎臓が悪いわけではないという話は、前回しました。エネルギーの不足から、下半身あたりに症状が出るのですが、病後や産後など体力が低下した時に現れる症状でもあります。

高齢者の方のむくみや多尿、頻尿なども「腎虚」によって起こる症状になります。「おしっこが近い」「腰もなんとなく痛い」なども「腎虚」による症状でしょう。

前立腺肥大症、前立腺炎、冷え症、膀胱頸部硬化症などは、高齢者に多いことから体力の低下を表します。

「腎虚」は決して高齢の方だけの症状ではなくて、若い方でも過労で無理をした場合などエネルギーが不足した状態になります。

高齢者の方が訴えられる下半身の悩み、過活動膀胱や 排尿障害などには、「牛車腎気丸 」や「八味地黄丸」も高齢者の方に処方することが多いのですが、若い方に処方した場合は、高齢者と違い即効性が期待できます。

一般的に「腎虚」を治すには時間がかかると言われますが、高齢でもこれらの漢方は改善が早くて驚くこともあります。

むくみの原因

「むくみ」 いわゆる「浮腫」は、体内で増えた水分がうまく体外に排出されなかったり、滞ることでおこります。

「むくみ」は水毒(スイドク)という体内の水分が偏在して起こり、「水」がうまくコントロールされていない状態です。

西洋の考えは、水分は入れるか、抜くかというシンプルな考え方になりますが、漢方を処方する場合は、「水回りをよくする」と考えて、余分な水分があるために、むくんだところの水分を移動させて、渇いたところに回して、潤すという考え方をします。  

最近は基礎研究が進み、「牛車腎気丸」や「八味地黄丸」には、西洋薬の抗コリン剤のように膀胱への直接作用しないが、律動的膀胱収縮頻度を抑制することが明らかにされています。また、オピオイド系を介して頻尿を改善するこも報告されるなどエビデンスもしっかりとしてきています。

抗コリン剤が使いにくい前立腺肥大に伴う頻尿の方にも使え、 抗コリン作用の 薬剤 にのように  膀胱 を 収縮 さ せ る の で は な く 、 弛緩させることで収縮力 を 高 め る という 特徴 があります。

処方に生薬を足していく!

「腎虚」に処方される漢方で腎を補うには、 六味丸(ロクミガン) があります。 「六味丸」は「腎虚」による症状に加えて、体がほてる、のぼせるなどの症状のある方に使用します。

冷えを訴える方への処方として、身体を温めて新陳代謝を即す作用のある「桂枝」「附子」の2つの生薬を「六味丸」という処方に足して「八味地黄丸」になります。

「牛車腎気丸」は「八味地黄丸」に「牛膝」と「車前子」という生薬を加えることで、痛みや利尿促進に働くため、これらの症状の強い方に処方します。

下半身の悩みに加えて「冷え」の症状が強い場合は「冷え」を良くする生薬が含まれた漢方薬が良いでしょう。

もし、 膝から下だけがむくむ、しびれて冷える方などは「牛車腎気丸」が効くタイプになると思います。

「冷え」があるかないかは大切なポイントで、「冷え」がない方が「八味地黄丸」や「牛車腎気丸」を服用すると熱くててたまらないとなることもあります。

「冷え」を判断するには実際に患者様の手などを触って診察させてもらうこともあります。やはり、代謝が良くて、「実証」の方の手は温かく、「虚証」で「腎虚」の方は冷たい手をされていると感じます。

特に女性や「虚証」の方は、身体を冷やさないようにした方が良いでしょう。これから、寒い季節になりますから、お身体を大切にご自愛ください。